進行した乳がんの治療


 前号では乳がんの手術について述べました。乳がんでは、しこりの大きさが2cm以下でリンパ節転移が無い場合を早期がん、しこりが2cmを超えるか、リンパ節転移がある場合を進行がんと呼んでいます。できるだけ早期に手術した方が、完全に治るし乳房は温存され医療費も安くなります。早期発見・早期治療が原則であり、そこに乳がん検診の大きな役割があります。しかし不幸にして、発見された時すでに進行がんであったり、あるいは手術後に再発や転移を来たした場合には、どのような治療が行われるのでしょうか。

 進行がんで手術をする場合、手術の前や後に抗がん剤が投与されます。どのような抗がん剤を使うかは、乳がんのタイプや進行度により異なります。また乳がんの細胞は女性ホルモン(エストロゲン)により活発化されますので、女性ホルモンの分泌や活性を抑制するような薬剤が用いられます。これを内分泌療法と呼んでいますが、手術により卵巣を摘出して女性ホルモンの分泌を抑えようとする方法も含まれます。

 一方、手術した後に再発や転移が生じた場合には、どのような治療があるのでしょうか。乳がんが転移を起こしやすい場所としては、肺、肝臓、骨、皮膚、脳などが挙げられます。これらの場所のどこに転移がみられても、抗がん剤治療が基本となります。乳腺から遠く離れた臓器に転移した場合(これを遠隔転移といいます)、がん細胞は既に全身に及んでいるものとみなし、体内に広く分布する抗がん剤の投与が行われます。この時使用される抗がん剤は、転移の程度や乳がんのタイプなどにより異なりますが、強烈な薬剤を用いることもあり、副作用が強すぎて治療の続けられないこともあります。一方、個々の転移病巣に対しては、その部位に応じて様々な治療法が併用されます。脳転移に対しては、数が少なくサイズも小さい場合には、ガンマナイフによる治療が有用です。効果は大きく完全に消失することもあります。また周囲の健常部分への影響が少ないため、何度でも行えるのも有利です。肝臓の転移に関しては、たくさんある場合にはリザーバー治療が行われます。これは、胸や大腿の動脈より挿入した管(カテーテル)を肝臓の動脈まで進め、そこより抗がん剤を注入して肝臓だけに高濃度の抗がん剤を投与するものです。一方、肝転移の数が少なく大きさも3cm以下であれば、ラジオ波焼灼治療法が行われます。これは細長い針を体の表面から刺して肝臓の腫瘍部まで進め、先端に取り付けた電極よりラジオ波を発信して腫瘍部分だけを熱し焼灼するものです。ちょうど電子レンジと同じ原理で熱を加えます。この方法も周囲の健常部位には影響を与えないものですから、何度でも繰り返し行えることが強みです。肺の転移に対してもラジオ波による治療が行われており、手前味噌な話で恐縮ですが、私どもの診療科は全国でも有数のラジオ波治療施設であります。

 皮膚や骨の転移に対しては、一般に放射線治療が行われます。骨転移の場合には疼痛を伴うことが多いため、痛みを和らげるという意味でも放射線照射が有効です。最近では、腰椎の転移で疼痛の強い場合には、ラジオ波で転移病巣を焼灼した後、骨セメントを挿入して骨を強化する方法も行われています。これも私どもの教室で行っていますが、疼痛緩和効果は高く、昨日まで痛くて歩けなかった人が笑顔で歩いて退院していくこともあります。
 以上、進行乳がんの治療法について簡単に述べました。いずれも決して楽な治療法ではなく、このような状態になる前に治療することが大切であることは言うまでもありません。繰り返しますが、早期発見・早期治療、それに尽きるのです。

三重乳がん検診ネットワーク代表
三重大学医学部放射線科     竹田 寛