'しこり'の触れない乳がん


 前号では、乳がんの早期発見には月に1度の自己検診が大切だと云うことを書きました。もう一つ大切なのが、マンモグラフィやエコーによる定期検診です。今回は、乳房専用のレントゲン撮影であるマンモグラフィを取り上げ、どんな利点があるのか、どのようにして受ければ良いのか、欠点は何か、などについてお話します。いよいよ本論に入って来ました。

 たいていの人は、自分の乳房に‘しこり’を触れると、まず乳がんが心配になると思います。‘しこり’が乳がんの最も一般的な症状であることは、どなたもご存知でしょう。そのために定期的に自己検診をして、自分の手で‘しこり’を見つけることが乳がん発見の第一歩となるのです。医師による乳がんの診断も同様で、以前より手で触って‘しこり’を探すことを中心に行われて来ました。これを触診法と云います。確かに熟練した医師が行う触診では、かなりの数の乳がんが発見されますし、今でも広く行われている診断法です。それでは触診だけで乳がんは十分に見つかるのでしょうか。
ところが、その発見率は意外に低いのです。乳がんの発見率を、触診だけの場合と、触診にマンモグラフィを併用した場合とを比較しますと、マンモグラフィの併用により発見率は約3倍になると云われます。つまり乳房を触るだけでは1/3の乳がんしか発見できず、残り2/3を見落としているということになります。
せっかく乳がん検診を受けても触診だけでは不安で、マンモグラフィを併用しなければ安心できないことがお分かりいただけると思います。それでは、触診では発見できずマンモグラフィにより初めて見つかる乳がんとはどんなものでしょうか。もちろん乳がんが‘しこり’を作っていながら柔らかくて触りにくいものや、乳房が大きく、しかも奥深いところに乳がんが発生したため触ることができないということもあります。そのような場合にも、マンモグラフィでは見事に‘しこり’として映し出すことができ正確に診断できます。さらに驚くべきことに、乳がんには‘しこり’を触れることのできないものがあるのです。これを非触知乳がんと呼んでいます。以前、乳がんは‘しこり’の大きさが2cmまでのうちに治療すれば、ほぼ完全に治ると書きましたが、この非触知乳がんはそれよりもさらに早い時期に当たります。乳がんが‘しこり’を形成する前のごく初期の状態なのです。マンモグラフィを併用すると乳がんの発見率が高くなるだけでなく、見つかるがんも早期のものが増えるのです。この時期に手術すると完全治癒が期待できますし、しかも手術法は乳房を切除する必要はなく、がんの部分だけを小さく切り取って乳房を残すことのできる乳房温存術が可能となります。女性にとってこの上ない福音となります。

 オリンピックでは「より速く、より高く」が標語ですが、マンモグラフィでは「より早く、より小さく」、これが合言葉なのです。次回もマンモグラフィの続きをお話します。

三重乳がん検診ネットワーク代表
三重大学医学部放射線科     竹田 寛